『医師、看護師らにも“新しい世界”』
『プレパレーション(心の準備)とディストラクション(気持ちをそらす)』
『資格新設など制度化図れ「“目からうろこ”の効果です」藤村医療センター総長』
『公明府議の推進実る』
大阪府立母子保健総合医療センターに今年4月、「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト」が配置され、その効果に注目が集まっています。ホスピタル・プレイ・スペシャリストとは、入院している子どもに“遊び”を通じて治療内容を理解させて不安を取り除く一方、気をまぎらわせて治療の円滑化を図る専門家のことです。日本では制度化されていないため、ほとんど知られていないが、英国では広く普及しています。治療にも資するとされる同スペシャリストの普及へ、対応が望まれています。
「シャボン玉遊びにする? それともお絵描き?」。大阪府立母子保健総合医療センター4階の東病棟(30床)の一室に、今年4月から、ホスピタル・プレイ・スペシャリストとして働く後藤真千子さんの優しい声が響きました。
薬剤師でもある後藤さんは、夫と英国に在住した期間、カレッジに通い同スペシャリストの資格を取得。その後、王立マンチェスター子ども病院で2年間、勤務した経験を持っています。
この日、後藤さんが声を掛けたのは啓ちゃん(仮名)。発達障害で府内の市民病院から転院し入院治療を受けている子どもです。
シャボン玉遊びを選んだ啓ちゃんは、後藤さんが用意した白いトレー上の泡をつかみながら、はじけるような笑みを浮かべました。足から入れている点滴も忘れたかのように、時折、「泡がいっぱい」と言っては、「キャー」と歓声を上げます。「遊んでいる時が一番いい顔!」。病室に戻ってきた母親が思わず声を掛けました。
後藤さんが啓ちゃんに“処方”したのは、ディストラクション(気をそらす)と呼ばれるものです。治療している間、横で絵本などを読んであげたり、手術時には、不安を和らげるため、麻酔が完全にかかるまで横にいて、励ますこともあります。
もう一つの仕事はプレパレーション(心の準備)。後藤さんが主に用いるのは、特殊な動物のぬいぐるみ。服を脱がせ、本体のチャックを下げると、血管や臓器、骨が出てきます。注射器も付いています。ぬいぐるみと遊びながら、どのような治療を施すのかを子どもに理解させていきます。また、不安を取り除くため、独自に作製した「ブック」(本)を使い、教えることも。例えば『ファイバーへ行く』という冊子。そこには同じ年格好の少年と実際に検査に当たる医師・看護師が登場。病室を出て、ファイバースコープによる大腸検査が終わるまでの行程、痛さを感じないための方法が優しく説明されています。
同医療センターにホスピタル・プレイ・スペシャリストが配置されて8カ月。関係者は「検査や治療を受ける際に泣く子どもがいなくなり、医師側は処置しやすく治療期間の短縮など効果も上がっている」(牧野幸雄同センター事務局次長)と指摘。また、長期入院にもかかわらず笑顔が絶えず、中には「楽しかった」とスキップをして退院し、医師や看護師を驚かせた子どももいたといいます。
子どもの側に立ち、“遊び”を通じてケアし、治療の円滑化を図る同スペシャリスト。その役割に早くから着目していた藤村正哲・同センター総長は「子どもをどのように理解し、ニーズ(要望)に応じるかについて、新しい世界を見せていただいています。(医療従事者に対しても)『目から鱗』の効果がある」と評価しています。
ホスピタル・プレイ・スペシャリスト制度は英国で誕生しました。資格も英国でしか取得できないが、米国やスウェーデン、中国・香港にも同様の制度があります。
このうち英国では、遊びの要素を取り入れることで心的な負担の軽減や治療効果も期待できるとされた「プラット報告」(1959年、英国保健衛生省)等を契機に、首都ロンドンの病院で導入が進展。85年、同国教育省が国家職業資格として「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト」を承認。養成課程を整備したのを受け、一気に普及しました。2000年の英国統計によると、97%の小児科で従事。病床比でも14床に1人配置され、医療チームの一員として働いています。「病気の子どもたちに対する治療の一部として、なくてはならないものになっている」(『発達』06年冬季号)のです。
一方、日本では、「ホスピタル・プレイ・スペシャリストは3人」(後藤さん)。米国の資格で従事している人も、昨年1月で「8病院8人」(日本チャイルド・ライフ研究会)にすぎない。制度化されていないため養成コースもなく、立ち遅れているのが現状です。
今年4月、後藤さんを採用した大阪府立母子保健総合医療センターは、5年前から研究会を設置し導入を検討。一方、府議会では公明党の三浦寿子議員が04年3月の本会議で配置を提唱。今年10月の決算特別委員会では長田公子議員が、知識の普及に取り組む方針を引き出しています。
中国・香港大学に養成コースを開設したイヴォンヌ・ベッチャー氏は、今年2月のフォーラム(東京)で「療養介護職(介護福祉士など)との協業」を提唱、注目を集めました。資格の新設など制度化を含め、普及へ向けた対策が望まれています。
<2006年12月>
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大阪府立母子保健総合医療センターでホスピタル・プレイ・スペシャリストの後藤さん(右から3人目)から話を聞く(右から)三浦、長田の両府議
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