<主な変更点>
(1)公用、公益性の高い調査・研究のみ閲覧可
(2)閲覧の手続き・審査を整備
(3)不当な閲覧・利用への罰則強化
(4)閲覧者・目的等を公表 |
「何人でも」閲覧できるとされてきた住民基本台帳について、閲覧できる場合を公用や公益性の高い調査・研究などに限定し、事実上「原則非公開」に転換する住民基本台帳法改正案が国会に提出された。個人情報保護の強化に向けてどのように変わるのか、そのポイントをまとめた。
『営業目的の大量閲覧は禁止』
『選挙人名簿閲覧も同様に改正』
改正案は、昨年10月に総務省の「住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会」(座長・堀部政男中央大大学院教授)が出した報告に基づいている。改正の柱は、「何人でも(中略)閲覧を請求することができる」とする第11条の「何人でも」を削除することで、住民基本台帳を原則非公開に転換すること。1967年の法律制定以後、85年、99年の改正で閲覧の対象や目的を制限してきているが、この規定を削除することで制度を抜本的に改革する。
その上で改正案では、閲覧できる場合を、(1)国または地方自治体の機関が法令に従った事務を行う公用(2)公益性の高い調査・研究(3)公共的団体が行う地域住民の福祉向上に寄与する活動??のためと具体的に限定。これによって現在、閲覧の大半を占めるダイレクトメール発送や市場調査などのための閲覧は、できなくなる。
また、閲覧申請の手続きと審査について新たに規定。閲覧を求める場合は、閲覧する人の身分はもちろん、利用目的、得た情報の管理方法、調査・研究成果の取り扱いなどを明示しなければならない。その上で、市区町村がその「公益性」を審査・判断し、閲覧を許可するかを決める。これは公用での閲覧も同様で、改正案では閲覧を求める国または地方自治体の機関の名称や、閲覧をなぜ必要とするのか、その理由や根拠となる法令名を明らかにするよう求めている。これらは当然、文書で申請し身分証などの写しを添付することになる。
不正な閲覧・利用の防止のために、目的外使用や第三者への情報提供禁止も規定。それでも、不正閲覧・利用の疑いがある場合には閲覧者に報告を求め、是正のための勧告・命令を出すことを可能にした。これらに従わない場合の罰則も強化、過料を引き上げるとともに、6カ月以下の懲役刑を新設した。
さらに、閲覧者(公的機関や企業含む)名と請求事由の概要を、市区町村は最低毎年1回公表することを義務づけ、閲覧事務の公正な運用を担保する。なお、検討会の報告書に盛り込まれていた住民票の写しの交付手続きの整備については、法務省の法制審議会で見直し作業が続けられている戸籍の謄抄本の交付制度と密接に関係するため、9月に予定されている同審議会の報告を待って別に見直される。
一方、住民基本台帳に基づいて作成される選挙人名簿の閲覧についても、同様の趣旨の改正案が国会に提出され、閲覧できる場合を明確化するとともに、手続きや罰則などを住民基本台帳法に準じて整備する。
『公益性判断のため事例集作成』
『閲覧手続き・審査など 求められる市区町村の体制整備』
改正案は、今国会中に成立すれば年内にも施行される。実際の事務を行う市区町村では、手続きや審査、報告徴収・勧告・命令のための監視、公表といった新たな仕事のための体制整備が求められる。いずれも、総務省が省令などの形で基準を示すことになるが、閲覧を認める際の“ものさし”になる「公益性」をどのように判断するかは、実際の判断例を積み重ねていくことが欠かせない。
検討会の報告書では、調査・研究の公益性の考え方として「調査結果が広く公表され、その成果が社会に還元されていること」と示された。
具体例として新聞社が行う有権者の意識調査、研究機関が行う都市計画についての意識調査などが挙げられている。
総務省の出す基準もこれに沿ったものになるものと見られるが、実際に判断を求められる自治体関係者からは「全国の市区町村が、判断例を共有できる仕組みを」との強い要望が出され、総務省も「大変に有益」として施行後、国と市区町村が共同して事例集を作成することにしている。
これまで多くの市区町村では、個人情報保護の強い要請に応え、閲覧申請手続きの厳格化や閲覧手数料を高くするなどして、悪用や営業目的の閲覧などを制限している。
条例を制定している市区町村も昨年5月時点で55を数える。これらの条例はいずれも、「何人でも」閲覧できるものの不当な閲覧は「拒否できる」との現行法の規定を根拠としている。そのため、今後、改正法が施行されると、これらの市区町村では条例や規則などの改廃が必要となってくる。
『個人情報保護の要請背景に具体化』
住民基本台帳の閲覧制度の抜本改革が具体化した背景には、個人情報保護への強い社会的要請がある。事務を行う市区町村からは改正の要望(2004年10月に全国連合戸籍事務協議会、11月に全国市長会)が出されていた。また、昨年3月に名古屋市で起きた強制わいせつ事件の犯人が、閲覧によって母子家庭だけを探し出して自宅に押し入ったことが明らかになった。時を同じくして、昨年4月からは個人情報保護法が施行されるなど、要因が重なった。
現行法では閲覧の目的などを制限する規定がないため、さまざまな目的に利用されている。04年度1年間の閲覧請求約150万件のうち、約7割はダイレクトメール送付などの営業目的だった。他には企業の市場調査が1割強、世論調査・学術調査が1割弱を占めており、閲覧制度本来の役割である「住所の公証」のための閲覧は全体の1割に満たない(総務省05年調査)。
こうした実態に対する批判の声が高まったため、昨年3月31日に公明党は総務省に対し抜本的な改革を申し入れ、5月から総務省の検討会がスタートした。
<公明新聞2006年3月27日付から>